お嬢様のぬいぐるみ その1

僕は川沼 武史(かわぬま たけし)、15才。普通なら、受験勉強にせいをだしている年なのだが、父親が去年急死し、母親が精神的なショックからノイローゼになってしまったこともあって、僕は、幼い弟と妹のためにも、許可を得て働きにでなければならなかった。

僕の仕事先は、親戚を通して、やっと決まった。
「ここが兵藤家の門よ。」
伯母につれてきてもらったのは、都心の高級住宅地の一画を大きく占めた、まさしく豪邸だった。

「すごいですね、こんな家。本当に人が住んでいるんですか?」
大きな屋根、大きな窓。どれをとっても僕の家とは格が違う。家の構造は、正面から全て理解できるものではなく。こちらから見えない建物の裏側にもまだ建物が続いているといった具合だ。

「私はこの家20年以上執事を務めています、香田と申します。」 続いて紹介されたのは、黒く細いラインのスーツに身を包んだ、二〇代後半のキレイな女性だ。髪を後で持ち上げていて、中には真っ白な襟の尖ったシャツを着ている。口紅の色は派手ではなく、ベテランの女性を思わせる落ち着いたトーンだ。口元の魅力的なホクロをニュっと歪ませて、緊張している僕に微笑みかけた。

「君には給仕として働いて貰います。仕事はその日によって違うと思うわ、しばらくは安定しないけど、その間にこの家にも慣れるでしょう」
「あ、はい。がんばります。」

窓から外を見ると、都会とは思えない広い芝が、庭に広がっている。その上を、まるで花びらが舞うように、ふわふわと一人の白い少女が歩いている。空を見上げ、どこか虚ろな表情だ。
「ああ、彼女はこの屋敷のお嬢様よ。」
「あの、僕は学校に許可をもらっているのですが、彼女は今日は学校はないのですか?」
平日の昼間に同い年ぐらいの子が、フラフラしているのを不思議に思って聞いた。
「うーん、病気なのよ。ずっと何年も学校へ行ってないわ。」
「え、なんの病気なんです?」
「うーん、病気というか・・・・」
あまり話したく無い様子だった。それでもポツリポツリと香田さんの漏らした言葉から事情を推測できた。
「要は、親が可愛い一人娘を世間に触れさせたくないわけだ、変なバイキンがついてほしくない、と。まったくの親のエゴだな。かわいそうに。」

帰り際に、まだ庭に座り込んで、花を拾い集めているその娘を見ながら呟いた。

次の日から僕はその広大な屋敷を隅から隅まで掃除をすることになった。
「だれにでもできる仕事でしょ。」
香田さんは軽く言ったが、とんでもない。ただでさえだだっ広いのに、その上その点検の厳しさったらなかった。
「ちょっと、この端から14本目の手すりのくぼみの部分に埃が残ってるわよ。まったくどこに目をつけてるの?」
「四つ目の廊下の、3番目の植木の下にまだ塵が残っていたわよ、もう一度全部拭き直して!」
廊下を移動している間、僕はぐったりとうなだれていた。
「疲れた・・・・
だが今日はこれで最後の仕事だ。お嬢様の部屋へ行って、お嬢様が食事を終えた皿をさげるだけだ。

コンコン「失礼します。」

中ではベッドの上で食事を終えたお嬢様が無言、無表情で僕を迎え、すぐに無関心になって外の月を眺めた。
僕は何もいわず食器を下げようとした。
「ん、こんなに残してる。」
でしゃばりな給仕だと思われただろう。しかし、生活が苦しかった僕にとっては、これだけの食材をこんなに残すことは驚きにあたいしたのだ。でもしかし、
「・・あ、失礼しました、ごめんなさい。」

やはり身分を越えた発言はまずい。香田さんに知れたら、こっぴどく怒られそうだ。
「んん・・いいの。」
お嬢様が初めて口をきいた。それは虫のような声で、ひどく聴き取りにくかった。
お嬢様は大きな優しい瞳で、僕を見つめニコリと微笑んだ。まるで人形のような娘だ、その太めの三つ編みを解けば、さぞ艶やかな髪なのだろう。
「あの・・・お嬢様、お嬢様の名前はなんというのですか?」
身分を越えた質問かもしれないが、なんだかこの娘には、話しかけてあげなければという気持ちになった。
「雪江よ、お嬢様なんてやめて、同い年くらいでしょ。お友達なら そう呼んで・・。」
力の無い声だったが、嬉しそうな顔を見せた。いや、そもそも病気では無いのだ。非力に見えるのは、その病人のようなヘアースタイルと純白のシルクのパジャマのせいだ。本人はいたって健康。
雪江は、体格も小さくなく、もし学校でスポーツをしていれば、何かしら活躍できたのではないか。
しかし全ては親のエゴのため、彼女は篭の鳥なのである。


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